AH21添加群(以下、実験群)における体重、糞量、餌摂取量については餌摂取量が対照群より低値を示したが、体重、糞量においてはこれを上回っていた。また、実験群全てにおいて体重の面では十分な発育、成長ならびに代謝が行なわれていたものと思われる。従って、高濃度のAH21を含有した食餌においても、体重増加という点では、その成育に異常をきたさないだろうということがいえる。
腸内細菌叢の検査では、今回実験を行った個体からはいずれもBifidobacterium、C. perfringensは検出されず、AH21投与によっても出現はみられなかった。また、糞便中の細菌数は対照群、投与群による差は認められず、AH21の腸内細菌叢に及ぼす影響は少ないと思われる。
臓器重量については、多くの臓器においてB群での低値を認めたものの、体重について見ると順調な増加が見られていたことから、対照群に比べて今回観察した臓器以外、もしくは脂肪量の増加が起こっていたのではないかと予測される。しかし、他の実験群に関しては対照群より高値を示す臓器も多く、またばらつきも多かったため、AH21の含有濃度による各種臓器の発育への影響について不明ではある。しかしながら、臓器重量ならびに肉眼所見から明らかな異常は認められなかった。
さらに、病理組織学的観察では主に消化器系に重きをおいて観察を行なった。肝臓に関しては、HE染色下では肝細胞質内に大小の空胞が認められた。また中心静脈中心性に変性・壊死が起こっていることから、AH21の影響が考えられるのであるが、同程度の変性が対照群にも起こっていることから、この考えは否定されるだろうと思われる。特殊染色では、脂肪を染めるズダンブラック染色、糖質を染めるPAS染色を行なったが、空胞内容物はどちらにも染色されず、脂肪変性でもグリコーゲン変性、硝子変性などでも無いことが証明できた。したがって、病理学的には水腫性変性などが考えられるが、これもまたはっきりとはしなかった。
以上のことから、乳酸菌並行複合発酵産生物質(AH21)の給餌によるマウス生体への悪影響はなく、安全についても問題ないといえると思われる。
今回、実験対象としたAH21は機能性食品としての生体への効果が期待されている。具体的には、素材生体防御、疾病予防と回復、体調調節、老化抑制などの有用な機能があげられる。また、その作用をプロバイオティクスやプレバイオティクスやバイオジェニクスの3つのカテゴリーにわけて捉えることができる。
プロバイオティクスは"腸内微生物のバランスを改善することによって、宿主動物に有益に働く生菌製品"と定義されている。つまり経口摂取した菌が腸に達して腸内の細菌叢に直接働きかけるというものである。これに対してプレバイオティクスは"腸内(結腸内)の有用菌(主にビフィズス菌)の増殖を促進したり、有害菌の増殖を抑制することによって、宿主に有益に働く難消化性食品成分"を指す。つまり有用菌のエサになるなどして有用菌を支援し、結果として生体によい効果を生むというものである。オリゴ糖や食物繊維などがこのカテゴリーに属する。さらにバイオジェニクスは"直接的な免疫賦活作用や変異原性、腫瘍形成、過酸化、高コレステロール血症、腸内腐敗の抑制により、宿主に有益に働く生理活性物質"とされ、生体に直接作用し、その結果、腸内フローラにも好影響を与えるというものである。
乳酸菌はプロバイオティクスの目的によく適うため、構成成分として伝統的に用いられてきた。AH21もまた乳酸菌を利用したプロバイオティクスの一つであり、今後のさらなる研究によってその有効性が確認されることを望んでやまない。
※参考文献
1)光岡智足、腸内菌叢の分類と生態 [研究叢書 1] 105-142、中央公論事業出版、東京、1986
2)調査中
3)光岡智足、腸内細菌学 81-178、朝倉書店、東京、1990
4)光岡知足:腸内菌の世界.叢文社,東京,1980
5)日本細菌学会教育委員会編:細菌学技術叢書3.嫌気性菌の分離と同定法.菜根出版,東京,1982
Reeves,P.G., F.H.Nielsen, and G.C.Fahey,Jr.
AIN-93 Purified diets for laboratory rodents
: Final report of the American Institute of
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J.Natr, 123:1939-1951(1993) |
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