材料および方法 |
○ラット
5週令のWisterラット、雄及び雌各1群5匹を代謝ケージで飼育した。ラットは、購入後2週間の予備飼育後、実験を開始した。飼育室は明暗サイクル12時間(明期7:00〜19:00)、室温24±1%の条件下に設定した。被験物質は凍結乾燥粉末及び液状物質(国際バイオジェニックス研究所より提供)である。液状被験物質は1M炭酸水素ナトリウム水溶液にてpH6.8〜6.9に調整し、原液及び脱イオン水にて2倍、及び4倍希釈したものを1ml/匹になるように飲料水に加え自由摂取させた。粉末状被験物質は1日当り500、250、及び125ml/匹になるように餌に混合し自由摂取させた。コントロール群は飼料及び飲料水を自由摂取させた。
○水浸拘束ストレス負荷実感
ラットを上記条件にて1週間飼育後、ストレス負荷前にエーテル麻酔下にて眼底静脈叢より採血し、ヘパリン加血液を得た。次に、ラットを金網に固定し、35±1℃の恒温水槽から鼻先が水面上に出るようにして1時間固定した。水浸拘束終了後、0、30、60、及び90分後にエーテル麻酔下にて眼底静脈叢より採血を行い、ヘパリン加血液を得た。実験終了時に解剖を行い、胃を摘出して肉眼的観察を行った。
○FACScan解析
常法に従ってヘパリン加血液を処理し、FACScanシステム(ベクトンディッキンソン社製)で解析を行った。即ち、5μlのFITC標識抗ラットCD4(ヘルパーT細胞)抗体、FITC標識抗ラットCD5(T細胞)抗体、及びFITC標識抗ラットCD8a(サプレッサーT細胞)抗体【PharMinger社製】に100μlのヘパリン加血液をそれぞれ加え、15分間冷暗所下で反応させた。次に溶血試薬(0.826%NaCl、0.29%Na2HPO4・12H2O、0.02%KCl、0.02%KH2PO)を加えFACScanシステムに供した。
○グルココルチコイドの測定
斉藤ら(日本内分泌学会雑誌、55巻10号 1296〜1306、1979)の方法に準じて行った。血漿100μlに5倍量のジクロロメタンを加えて抽出し、1/10容のN/10水酸化ナトリウム溶液及び蒸留水で洗浄後、窒素ガスで濃縮乾固させ、エタノールに再溶解し、HPLCに供した。HPLCの機種はWaters600型【Waters社製】で、カラムはSUPERCOSIL
LC-Diol 25cm×4.6mmLD【スペルコ社製】、検出には254nmのUV波長を用いた。キャリヤー液はhexane;70%hexane/30%2-propylalchol(20:80)で、流速は1ml/minで行った。標品にはCorticosterone【SIGMA社製】を用いた。
|
|
結果ならびに考察 |
雄のストレス負荷前のCD4(ヘルパーT細胞)及びCD8a(サプレッサーT細胞)とストレス負荷後0分、30分、60分、及び90分のCD4及びCD8aの割合とその比を表1−(1)に、ストレス負荷前のCD4/CD8a比に対するストレス負荷後0分、30分、60分、及び90分のCD4/CD8a比の変化率を表1−(2)に示した。コントロール群ではストレス負荷前に対してストレス負荷直後のCD4/CD8a比が20.6%低下し、以降30分、60分、及び90分後においても21.9、23.9、27.8%とCD4/CD8a比の低下を維持していた。粉末状被験物質を投与した各群(125、250、500mg投与)では、ストレス負荷によるCD4/CD8a比は負荷直後でも既にコントロール群に比して抑制効果が見られ、125mg投与で約50%、250mgで20%であり、特に500mg投与では全く変化を認めなかった。
|
|
このCD4/CD8a比の減少抑制傾向は液状被験物質投与群でも全く同様の結果を得た。また雌《表2-(1)及び表2-(2)の場合に》おいても雄のそれらと同様の結果であった。
非常に強い負のストレスが負荷された場合、ヘルパーT細胞(CD4)が低下し、サプレッサーT細胞(CD8a)が上昇する事が知られている。以上のことから本被験物質(粉末状及び液状)を投与したラットでのヘルパーT細胞及びサプレッサーT細胞割合の所見より非常に抗ストレス作用が確認された。
次に、雄のストレス負荷前・後における血漿中グルココルチコイド(コルチコステロン)濃度を比較すると、コントロール群ではストレス負荷直後(0分)で既に負荷前の2.5倍に上昇しており、その後も上昇を続け、90分後には約5.0倍になっていた。一方、粉末状被験物質AH21を投与した群の濃度は、125mg及び250mg各々投与群でストレス負荷直後(0分)では2.4〜2.5倍であり、コントロール群との有意差は認められなかったが、その後90分まで濃度変化を認めず、90分後ではコントロール権よりも40〜60%抑制効果が認められた。そして、500mg投与群ではストレス負荷直後では約2.0倍の上昇を見たが、60分経過以降に減少し始め、90分経過時では負荷前の数値に戻っていた。
このAH21のストレスホルモン産生抑制作用は液状被験物質でさらに顕著に認められ、粉末状被験物質同様にストレス負荷前・後にて比較検討した結果、4倍希釈液及び2倍希釈液投与ともに負荷直後では、負荷前に比し各々2.4、2.1倍であったが、4倍希釈液投与では、60分経過以降低下し、又2倍希釈液投与では30分経過時に低下し始めていた。さらに原液投与した場合では、その抑制作用は顕著であり、ストレスを負荷しても、血漿中ストレスホルモン濃度の変化はほとんど見られなかった。ラットのストレス負荷前・後の血漿中グルココルチコイド(コルチコステロン)濃度の変化を表−4に示した。雄・雌共同様の傾向を示しており、粉末状タイプよりも液状タイプの方が血漿中ストレスホルモン濃度の抑制に強く作用していた。
|
一般的に女性ホルモンは抗ストレス作用を有すると考えられており、本実験に於いてもストレス負荷による血漿中ストレスホルモン濃度は、雄よりメスの方が低い傾向を示した。
ストレス負荷によるアドレナリンやコルチコステロイド等のストレスホルモン産生は図−4に簡単に示したように、ストレス刺激により産生されたインターロイキン・1が視床下部からのコルチコトロビン遊離ホルモン(CRH)の分泌を促し、CRHは脳下垂体に作用しプロオビオメラノコラチンからβエンドルフィンと向副腎皮質ホルモン(ACTH)を産生する。本実験で測定したコルチコステロイドはACTHから産生される。AH21のT細胞やストレスホルモンへの影響は、正常状態では一切認められず、ストレス負荷した時のみ認められた。この事からAH21の抗ストレス作用は、生体が何らかの外的・内的障害を受けた場合にのみ生ずる現象であると考えられる。 |
|
最後に解剖後摘出した雄と雌の各群の胃粘膜肉眼所見を図1と図2に示した。コントロール群では胃粘膜上の広範囲にわたって出血が認められた。粉末状被験物質投与群では投与量と出血傾向に負の相関が認められたが、500mg投与群でも依然広範囲の出血が認められた。これに対し、液状被験物質投与群では、投与量と出血傾向に負の相関が認められたのと同時に、原液投与群の胃粘膜にはほとんど出血を認めることはできなかった。
強いストレスを負荷された時の胃粘膜障害は簡単に記すと次のように誘発される。
ストレス負荷による交感神経の緊張 ⇒ ストレスホルモンの放出 ⇒ アドレナリンレセプターを持つ好中球の増多 ⇒ 粘膜破壊ヘリコバクターピロリ菌等の感染症以外の、いわゆる神経性胃潰瘍は副交感神経支配下にあり、消化管機能が低下している。このような状態ではアドレナリンレセプターを持つ好中球の増多を招き、粘膜組織の障害を誘発する。
本実験でAH21投与により胃粘膜障害はある程度緩和されていることが確認できた。特に液状タイプの原液では、雄・雌ともにほとんど胃粘膜の出血班を認めなかった。
先に述べた如く、液状被験物質(液状タイプ)の原液投与における血漿中のストレスホルモン濃度は、雄・雌共にほとんどストレス負荷前と変化しておらず、このことが胃粘膜障害を誘発させなかった要因であろうと考えられる。
|
|
結 論 |
AH21には水浸拘束ストレスに対する強い抗ストレス作用のあることが認められた。特に液状被験物質ではその作用が顕著であり、併せて胃粘膜保護作用も認められた。 |
|